播磨の酒 八重垣
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  山田錦の素顔
山田錦の玄米と40%精白米。大粒で、大幅精白しても心白が壊れないのが特徴。

 酒の旨味を表すには、多様は言い回しがあるが、山田錦で醸造された吟醸酒には、ほぼ、決まった表現が用いられる。

 香り良く、のどごし淡麗、きめ細かな味、まろやかさ。芳醇さ、アマ・カラ・ピンの三拍子・・・・・。と、言った具合だ。

 これらの「旨さ」を作り出すためには、酒米の成分、つまり「質」と、大きさ、つまり「量」が問題となる。

 質の最大のポイントは、タンパク質含有量が少ないことである。これが多いと、清酒中のアミノ酸も多くなり、のどのひっかかるような、いわゆる雑味が生じる。また、日光に当たると着色する欠陥も生じることになる。

 山田錦のタンパク質含有量は、75%精白米で5%前後となっており、他品種に比べかなり下回っている。

 量については、精米率に関係してくる。酒造玄米は、削れば削るほど、いい酒になる。大吟醸などは、米粒を最高3分の2以上も削る。そこまで削っても、酒造りのカギを握る米の中心部「心白」が壊されないという条件を備えなければならない。

 それは同時に、蒸し上げたときの粒揃いがいいということにつながる。蒸し米の外は堅く、中は柔らかくなければならないのだが、大粒の米はその条件を満たす。こうじ菌を混ぜ合わせる際、蒸し米の「さばき」を行うが、その作業もやり易くなる。

 醸造時、こうじ菌は心白に浸透し、酒の旨味を造り出すのだが、米一粒ずつに、まんべんなく浸透して全体の風味が増すわけで、そのためには、精白後の心白がしっかりしていることが求められるのだ。

 山田錦の大きさは、千粒27〜28gと最大級の大きさだ。この大粒は、大幅精白にも耐えて、心白は壊れない。しかも、心白の形状が横一文字となっており、こうじ菌の均一浸透を促す好条件を備えている。

 山田錦の回りには、旨味をつくりだす条件、いわば旨味の演出者が、いっぱい居る。いい酒ができるわけだ。


左から順に、愛山、神力、山田穂、山田錦、兵庫夢錦、むらさきの舞、新山田穂1号、同2号、渡船。ひときわ長い山田穂の茎。

 そもそも、山田錦とは何か。酒米の多くがそうであるように、それは、交配、品種改良を重ねた結果の名産品なのである。

 母は「山田穂」、父は「短稈渡船」。大正12年(1923)、明石にあった兵庫県立農事試験場で、この二種の人工交配が行われた。”究極の酒米”をつくり出そうという野心的な実験であった。

 山田穂。古来「やまだぼ」と呼ばれていたこの大粒の米は、明治以降、北播磨の地で栽培され、酒造家や杜氏らから絶大の信頼を得ていた。灘五郷から近いこともあって、山田穂の需要は伸びる一方だった。

 ところが、この山田穂には、大きな欠陥があった。稈、つまり稲の茎が長すぎるのである。大粒の実を付ける茎は、当然のことだが、長くなる。何ごともなく順調に生育すれば何の問題もないが、自然は、そうはいかない。1メートルを優に越える大づくりな稲穂は、風に弱いし、病虫害に対する抵抗力も弱い。毎年、取り入れ前に倒伏する稲田が多くあった。

 この弱点を克服するため、農事試験場での交配実験が行われたのである。掛け合わす相手に選ばれたのが、茎の短い「短稈渡船」であった。

 交配といっても、そう簡単なものではない。それぞれの純粋種の選別から始まって、厳しい環境管理を行い、地道な実験が繰り返された。米は1年単位で作られるから、1年ごとの成果から、より良い酒米の誕生を目指して明石の実験田を舞台に、忍耐強い交配、栽培実験が続いた。

 いわば実験室で始まった交配試験は、翌大正13年に生まれたF1(雑種第一世代)を皮切りに、F2、F3、F4・・・・・と毎年、さまざまな改良を加えながら、いわゆる「選抜固定」が図られていった。F5まで到達した昭和3年、社町に全国初の酒造米試験地(現在の酒米試験地)が設立され、いよいよ本格栽培へ向けてのスタートが切られた。

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